静岡地方裁判所浜松支部 昭和48年(わ)139号 判決 1974年5月01日
本籍
浜松市野口町六四三番地
住居
右に同じ
会社員
横田五二
昭和五年三月六日生
本店所在地
浜松市野口町六四三番地
有限会社 横田商店
右代表者
横田義一
右横田五二に対する公文書毀棄、公務執行妨害、傷害、法人税法違反、有限会社横田商店に対する法人税法違反各被告事件について、当裁判所は検察官伊藤正利出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人横田五二を懲役一年六月に、被告人有限会社横田商店を罰金三〇〇万円にそれぞれ処する。
被告人横田五二に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。
訴訟費用は全部被告人横田五二の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
第一、被告人有限会社横田商店は、浜松市野口町六四三番地に本店を置き、食肉販売および宅地造成ならびにその分譲等を営むもの、被告人横田五二は同会社代表者横田義一に替わり同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人横田五二は右会社の業務に関し公表経理上、架空仕入れを計上したり、あるいは売上金額の一部を除外する等の方法により法人税を免れようと企て
(一) 昭和四五年三月一日より同四六年二月二八日までの事業年度における被告人会社の所得金額は一四、八七一、五一二円であり、これに対する法人税額は五、〇六五、五〇〇円であるにもかかわらず、同四六年四月三〇日浜松市元城町三七番地の一、浜松税務署において右事業年度の確定申告をなすに際し、同署長に対し、同年度分の所得金額は六、一三〇、八〇五円であつてこれに対する法人税額は二、〇四八、五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により、右正規の法人税額と右申告税額との差額三、〇一七、〇〇〇円をほ脱し
(二) 昭和四六年三月一日より同四七年二月二九日までの事業年度における被告人会社の所得金額は五四、一六七、五三一円であり、これに対する法人税額は一九、四五七、九〇〇円であるにもかかわらず、同四七年四月二八日右浜松税務署において右事業年度の確定申告をなすに際し同署長に対し同年度分の所得金額は三五、〇六五、七九七円であつてこれに対する法人税額は一三、二二二、七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出しもつて不正の行為により右正規の法人税額との差額六、二三五、二〇〇円をほ脱し
(三) 昭和四七年三月一日より同四八年二月二八日までの事業年度における被告人会社の所得金額は二一、四五七、一九七円でありこれに対する法人税額は七、三八五、〇〇〇円であるにもかかわらず同四八年四月二八日右浜松税務署において右事業年度の確定申告をなすに際し同署長に対し同年度分の所得金額は三、二四八、七五六円であつてこれに対する法人税額は七一二、二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出しもつて不正の行為により右正規の法人税額との差額六、六七二、八〇〇円をほ脱し
たものである。
第二、被告人横田五二は、浜松市野口町六四三番地有限会社横田商店の実質上の経営であるが、昭和四八年五月一五日午前九時ころ、収税官吏で名古屋国税局調査査察部査察第二部門に勤務し国税に関する犯則事件調査の職務を担当している統括国税査察官藤具貞およびその部下約八名の収税官吏が右会社の法人税法違反嫌疑事件の証拠物件収集等の目的をもつて浜松市野口町六四三番地所在の被告人宅に到り収税官吏竹川実よりその身分証明書および名古屋簡易裁判所裁判官岡田正行の発した臨検、捜索、差押許可状を示されて「同許可状により被告人宅を捜索するから立会されたい」旨求められるやこれを拒否し一旦外出したが同日午後一時三五分ころから被告人の妻横田弘子立会のもとに右藤具の指揮による被告人宅の捜索ならびに必要な物件の差押え等が開始され、いまだその継続中であつた同日午後七時三〇分ころ帰宅し折から自宅二階において石川茂夫、樋口繁男、都築知也ら三名の収税官吏が妻弘子に対し前記許可状一通ならびに臨検捜索てん末書、差押てん末書、各二通を示しそれらに立会人としての署名押印方を求めているのを見るや、立腹し、右書類全部を突然取り上げて引き裂き、もつて公務所の用に供する文書を毀棄し、引続き同所で右三名の収税官吏に対し「包丁でぶつ殺してやる。」などと怒号して脅迫し、さらに右石川茂夫の頭髪を掴んでゆさぶり、右樋口繁男の後頭部を一回、右都築知也の胸部を二回位、収税官吏磯野清幸の顔面および胸部を四回位、前記藤具貞の顔面を二回位いずれも手拳でそれぞれ欧打し、もつて右藤具、石川、樋口、都築、磯野らが実施していた臨検、捜索、差押等の公務の執行を妨害するとともに右藤具に対し右暴行により全治まで約一週間の通院加療を要する鼻背挫創を負わせたものである。
(証拠の標目)
判事第一の各事実につき
一、大蔵事務官作成の証明書三通
一、大蔵事務官作成の脱税額計算書三通
一、大蔵事務官作成の架空仕入、売上除外、架空買掛金に関する調査報告書
一、横田弘子の大蔵事務官に対する昭和四八年八月二三日付、同年九月七日付および同年一〇月一二日付各質問てん末書
一、被告人横田五二の大蔵事務官に対する昭和四八年六月一四日付、同年八月二日付、同月三〇日付および同年一〇月一二日付各質問てん末書
判示第二の事実につき
一、第三回公判調書中証人藤具貞、同都築知也の各供述部分
一、第四回公判調書中証人竹川実、同石川茂雄の各供述部分
一、第五回公判調書中証人樋口繁男、同磯野清幸の各供述部分
一、小柳弼作成の診断書
一、横田弘子の司法巡査に対する供述調書
一、押収してある毀棄された臨検捜索差押許可状二片(昭和四八年押第四二号の一)、毀棄された臨検捜索てん末書七片(前同押号の二)、毀棄された差押てん末書六片(前同押号の三)
一、被告人横田五二の司法警察員および検察官(昭和四八年五月二四日付)に対する各供述調書
(法令の適用)
被告人横田五二の判示第一(一)ないし(三)の各所為はいずれも法人税法一五九条一項に、判示第二の文書を毀棄した所為は刑法二五八条に、公務執行妨害の所為は同法九五条一項、傷害の所為は同法二〇四条、罰金等臨時措置法三条一項一号にそれぞれ該当するところ、右判示第二の公文書毀棄と公務執行妨害および公務執行妨害と傷害はそれぞれ一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから刑法五四条一項前段、一〇条により以上を一罪として最も重い傷害の罪の刑(但し懲役刑の短期は公文書毀棄の罪の刑のそれによる、で処断することとし、右判示第一(一)ないし(二)の各罪および第二の傷害の罪につきいずれも所定刑中懲役刑を選択し、以上は同法四五条前段の併合罪であるから同法四七条本文、一〇条により最も重い判示第二の傷害罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役一年六月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右の刑の執行を猶予し、訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項本文を適用して全部これを同被告人の負担とする。
被告人有限会社横田商店については法人税法一六四条一項を適用して判示第一(一)ないし(三)につきそれぞれ罰金刑を科することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪の関係にあるから、同法四八条二項により所定の罰金額を合算した範囲内で同被告人を罰金三〇〇万円に処する。
よつて主文のとおり判決する。
(裁判官 島敏男)